実践的なユーザビリティ
ペルソナの力
Dr. Charles B. Kreitzberg および Ambrose Little
認知的視点
Dr. Charles B. Kreitzberg
UI を設計するなら、ペルソナを作成して設計の指針にすることをぜひ検討してください。ペルソナは、ユーザー エクスペリエンス (UX) 設計のための基本的なツールの 1 つです。ペルソナとは、開発中のソフトウェアのユーザー セグメントを代表する架空の人物についての記述です。もちろん、人物は架空であっても、その記述は架空ではありません。記述はできる限り現実に基づいていなければなりません。
図 1 に、金融機関向けに作成された簡単なペルソナの例を示します。Bill (と彼の妻 Sue) は、ある銀行が顧客に対して行ったインタビューに基づいて作成した架空の人物です。インタビューとその他の調査結果から、その銀行の顧客を、目標、関心事、およびインターネットの利用習慣ごとに分類すると、多数の対象セグメントに分かれることが判明しました。特定のセグメントを代表するペルソナを作成すれば、設計上の質問を策定し、それに答えるのが簡単になります。
ペルソナは、この例に示したものより、ずっと長く詳細なものになることもあります。以下に、同じプロジェクト向けに作成した長いペルソナの例を示します。[Mark Singer の pdf へのリンクを挿入]
ペルソナを作成することは厳密な科学的手法ではなく、ペルソナが実際にどの程度ユーザーを反映しているのか確認することも困難です。ペルソナは架空の行為によって作成されるため、その価値を根本的に疑問視する人もいます。こうした批判は、ペルソナはデータから作られるが、データはその性質上完全ではないため、ペルソナも完全なものにはなり得ないという事実を忘れないようにするという意味では価値があります。しかし、そうした点を認めたとしても、ペルソナはきわめて有用です。ペルソナの主な利点は次のとおりです。
- 設計者が対象セグメントにおけるニーズと要望を推測できる
- ユーザーの特徴を簡潔かつわかりやすい方法で伝えることができる
- 利害関係者が自分の利益のために対象セグメントの定義を変えてしまうのを防ぐことができる
- UI 設計の対象ユーザーに顔を付けることができる
図 1 簡単なペルソナ
ペルソナの作成方法
大半のデザイン要素と同様、ペルソナも反復作業によって作成できます。また、大半のデザイン要素と同様、ペルソナを共同で開発することにも利点があります。関係者やチームの他のメンバが参加することによって、ペルソナの正確さが向上し、ユーザーに対して一定の認識が生まれ、結果としてチームのユーザーに対する認識が統一されます。チーム メンバは、ペルソナに慣れるにしたがって、実在のユーザーであるかのようにペルソナについて話すようになります。こうした状態になると、開発者にとって価値のある視点が得られるようになります。
ペルソナは簡単なものでも十分に役に立ちます。筆者は通常、営業担当者や顧客サービス担当者など、対象ユーザーをよく知っている人たちとの会話に基づいてペルソナの簡単な概要を作成することから始めます。このようなペルソナは、実際のデータに基づいていないため "推測によるペルソナ" と呼ばれます。
場合によっては、時間やリソースが制限されているため、このようなペルソナしか作成できないこともありますが、より良い方法は、ユーザーにインタビューし、収集したデータを使用してペルソナを検証したり改善したりする方法です。ときには、組織が、さまざまな民族学的な調査手法を駆使して、データ収集と分析を徹底的に実行し、高度に洗練されたペルソナを作成する場合もあります。
徹底した調査に基づいてペルソナを作成する方法もすばらしいのですが、推測による簡単なペルソナをいくつか組み合わせただけでも、有用な設計ツールになります。
ペルソナとその構造について理解するための優れた書籍として、John Pruitt と Tamara Adlin の共著『The Persona Lifecycle: Keeping People in Mind Throughout Product Design』(Morgan Kaufmann、2006 年) があります。
ペルソナが役に立つ理由
ペルソナでは、人間が持つ基本的な能力、つまり、他人がどのように反応するかをその人のメンタル モデルに基づいて推測する能力をうまく利用しています。親しい友人や家族が特定の出来事に対してどのように反応するかを正確に推測し、その推測に基づいて行動を決定することはよくあります。
親しい友人や家族については、メンタル モデルを豊富かつ (通常は) 正確なものにするさまざまな過去の経験があります。しかし、人間は、比較的少量のデータからでも他の人を推測できるのです。たとえば、だれかが歩くときの態度や姿勢を見ただけで、通りを横断する気になることがあります。
もちろん、ある状況での人の行動についての仮定は間違っていることがありますし、推測を誤ることもよくあります。それでも、他の人の行動を正しく推測する能力は生きていく上で必要不可欠であり、人は事実認識に基づいて、それができる十分な資質を備えています。ペルソナが強力なツールとなるのは、そうした人の持つ能力のおかげです。対象ユーザーのモデルを作成することによって、自分の選択した設計に対するユーザーの反応を推測することができます。
ペルソナがサポートする推測の種類
ペルソナを使用すると、さまざまな点で設計プロセスが容易になります。ペルソナでできることは次のとおりです。
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