ピクトグラムからPICシンボルへ
シンボルに正しいシンボル、間違ったシンボルというものはありません。しかし、より良いシンボル、コミュニケーション用として優れたシンボルといった見方はできるでしょう。
ピクトグラムが他のシンボルと大きく違う点は、線画でなく面画という点です。ピクトグラムデザインの基本は黒地に白図であり、そこに第一の長所があります。また、他ののシンボルは線画ゆえにデザイナーの個性による部分がピクトグラムより大きく現れやすくなります。「情報」という視点からデザインされたピクトグラムは異なる次元のシンボルと言えます。
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「ピクトグラムについて」のページでも述べたように、黒地に白図(または反転)は大きな長所です。輝度差が生み出す知覚的な利点と図のデザイン性がポイントですが、さらに、意識的なデザインワークとして重要な下記の2点があります。制作に当たっては特に重要視していますので説明としてここで加えておきます。
<1> 特徴の取捨選択
原基の定義は何ですか?
<2> 図(線や形)の単純化 「ピクトグラムの単純化」
<1>特徴の取捨選択:これは「描くものと描かない部分の選別」です。ある対象物の全てを必要な情報と捉えてしまえばどんどん見えるものを描いていき、写生や精密画になってしまい、写真と変わらなくなります*。認知を目的にしたとき不要な部分があるわけです。どの視点から描くか(視点依存viewpoint-dependent)ということも関わってきます。
ピクトグラムデザインでは対象部分の取捨選択、つまり描かないことの方が重要になります。人間の認知的な働きからは、「あ、これはあれだ」という理解(同定)のためには最低限の特徴でよいということも分かっています*。その最たるものが、象の鼻のようなインデックスと呼ばれるです。
<2>図(線や形)の単純化:これは<1>をさらに検討して、線は直線か曲線か、角度など筆運びにあたります。次ページのJIS作図原則のひとつに「自然な描写」という項目がありますが、これは例えば極端な角形を用いないという原則です。人の手先などは丸く描き、人工的な角にはしません。こういう点はデザイン性重視の案内用図記号とは異なる点です。
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これら二つのステップが、分かりやすいピクトグラムに仕立て上げてくれます。 デザイナーの個性やセンスを完全に排除することはできませんが、このような意識的な作業によってさらに分かりやすいシンボルになります。
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上で紹介した他のシンボルを同じ概念のPICシンボル(ピクトグラム)に置き換えて見ましょう。いかがでしょうか。サイズは基本サイズ(85ピクセル)の半分に小さくしたサムネイル(43ピクセル)版ですが、このサイズでも、基本語彙なら十分に分かります。単純化がゆえに小さくても分かるというンボルとなり、これは多数を必要とするコミュニケーション用シンボルとして大きな長所となります。
*「干支時計」なるものを作りました。指差しで時刻を伝えたり、「午の時間です。お昼ごはんにしましょう」など数字の代わりに動物の名前を使えば楽しいかも。→
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単に意味を知るためのイメージという視点からは、各種シンボル間に差があるとはいえません。しかし、効率的なコミュニケーションを目的にしたときに差がでてきます。より正確に、複数のシンボルからできるだけ早く目的のシンボルを探し出せる方が良いからです。ピクトグラムの案内用サインは、車で走っていても分かります。そのような、瞬時に、また小さくても分かるデザイン技術をコミュニケーション用でも生かすことができます。
一般社会に広くピクトグラムが受け入れられてきた実績は、言語障害者ともう一方のコミュニケーション者である健常者にとって、会話に参加しやすいという自然な環境を作り出します。親近性があり利便性が高いと言えます。こうした利点を考慮するとピクトグラム(PICシンボル)こそ最良のコミュニケーション用シンボルと言えるのではないでしょうか。
もうひとつ加えれば、単純化されたデザインは認知的なハンディのある利用者の抽象化能力も引き出し、育てるということが挙げられます。これは、単純化され過ぎると何を描いているか分からなくなるという短所と表裏一体ですが、程よい単純化は見る側の形象化、抽象化の能力を促進すると考えらます。
以上のような考え方が日本版PICシンボル〜JIS絵記号の礎(いしずえ)となっています。シンボルのデザインという面では、ピクトグラムをコミュニケーション用という視点で制作したものがPICシンボルです。
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